【現地レポート⑮】尽誠学園 vs. 延岡学園、もうひとつの対決
2019年12月26日
渡邊雄太 (メンフィス・ハッスル) も SNS で注目した “師弟対決” は弟子側に軍配が上がった。
ただ弟子はキッパリと言う。“恩師越え” とは思っていません――。
「SoftBank ウインターカップ2019 令和元年度 第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の男子 3 回戦、尽誠学園 (香川) と延岡学園 (宮崎) の一戦は76-90で延岡学園が勝利をあげた。
延岡学園の楠元 龍水コーチは尽誠学園の卒業生。渡邊の同級生として、尽誠学園の色摩拓也コーチのもとでバスケットに取り組み、ウインターカップにも2011年、2012年と連続して出場している。そのときの成績はいずれも準優勝。ただ、その 2 回とも尽誠学園を破ったのは延岡学園だった。つまり高校時代に敗れたチームで今、楠元コーチは指導をしている。
そんな教え子と全国大会の舞台で戦えることを、色摩コーチは「喜び」だと言う。
「今まではバスケットプレーヤーとして 3 年間で成長させて、渡邊を筆頭に、大学でも関西のほうで活躍してくれて、『尽誠学園の子たちが頑張ってくれています』と言われることがうれしいと思っていたんですけど、楠元や、大阪の中学校で指導者として頑張っている子もいて、こういう喜びというか、指導者をやっていて、プラスアルファの喜びも与えてもらえるのかなと思えます」
定期的に連絡を取り合い、つい楠元コーチが指導する延岡学園のゲームを追いかけ、アドバイスを送ることもあると色摩コーチは認める。
「当たるってわかっていたら、絶対に言わなかったです」
試合後、色摩コーチはそう言って笑顔を見せる。負けてなお、そうした笑顔を見せられるのも、やはりどこかに嬉しさ―― 勝敗とは異なる、指導者としての喜びがあるのだろう。
一方の楠元コーチも「困ったときは、僕が中学校を指導しているときも色摩先生に相談に乗ってもらったり、ライバル校に行ったんですけど、それとは異なる、楠元龍水という一人の指導者のために問題解決のための手助けをしてくれたり、問いを投げかけてくれたりしてくれて、今も……選手の気分です」 と笑って、さらにこう続ける。
「実は 9 月に練習試合をして、そのときは負けたんです。でも、そのときに『楠元、今日、君たちはこうしてきたから、俺はこう攻めたんだよ。そういうところも気づかないとダメだよね』って言われて、『そうですか……』と聞いたことを、今日しっかり出させてもらいました」
3 年間、尽誠学園のバスケット、もっと言えば「どこが狙い目なのか」「どういうプレーしたときに勢いづいてくるのか」を知っているだけに、そのポイントも楠元コーチは延岡学園の選手たちにミーティングで伝えていたと明かす。
「尽誠学園はこういうところをついてくるよと。伝統的に、こういうときにスティールを狙ってくるとか、チャンスがあればダブルチームに来るとか、僕らのときもやっていたと思うんですけど、そういうところをついてくるから、そこをわかったうえでプレーしなさいと伝えました」
むろん色摩コーチも、楠元コーチがそういうことを延岡学園の選手たちに伝えているだろうことは織り込み済みだった。
「ありがたいことですけど、過敏になりすぎているなと。そこにつけ込むことはできるかなと。タイムアウトで子どもらに言ったのは『向こうは焦っている。こっちがバタバタしなければいけないところで、僕だったらもう 1 本、2 本後に取っていたタイムアウトを今、向こうが取った。こっちが助かっている。だからゲームになるからね』と。ただ『指導者対指導者でやっているのではないので、選手ありきのバスケットだから、君たちが勝たなければいけないよ』と」
ゲームはもちろん選手たちがプレーするものだが、実はベンチの “裏側” でコーチたちのそんな駆け引きも行われている――。