【現地レポート⑩】県立津幡の大黒柱が見せた勝利への執念
2019年12月25日
無我夢中だった。残り 5 秒で 1 点ビハインド。フリースローラインに立つ#6 高本 愛莉沙が放つ 2 本目のフリースローが外れたら、自分がリバウンドを取るしかない。県立津幡 (石川) #10中道玲夏はそう考えていた。リバウンドを取って、シュートを決めたら勝てると。
高本が 2 本目のフリースローを放つ。ボールは大きく跳ね上がって、落ちてくる。中道は無我夢中でそのボールに手を伸ばした――。
「SoftBank ウインターカップ2019 令和元年度 第72回全国高等学校バスケットボール選手権大会」の女子 3 回戦、県立津幡と、高校総体ベスト 4 の大阪桐蔭 (大阪) の一戦は劇的な幕切れで、県立津幡が準々決勝進出を決めた。最終スコア72-71。
中道はリバウンドを取り、ステップを踏み替えることなく、そのままシュートモーションに入った。大阪桐蔭の選手がたまらずファウルをする。フリースロー。残り時間は 3 秒に変わっていた。
1 本目、成功。
2 本目は、審判がその後のプレーについて、選手たちに注意を与えていたため、少し間があった。
「少し間があって緊張しましたけど、ボールを受けたときに気持ちを切り替えて、集中しました」
緊張がプレーに英徴してもおかしくない状況で中道は冷静に気持ちを切り替え、72点目となる 2 本目も決めた。
大阪桐蔭もあきらめずにセンターラインあたりからシュートを放とうとしたが、県立津幡がそれを守って、逆転勝利をあげたのである。
前回大会で県立津幡は 4 位入賞を果たしている。中道も、高本も、キャプテンの #4 小山 里華もスターターとして、その成績に貢献した。彼女たちが残る今年の県立津幡は全国でも上位に食い込むのではないか。そう思われていた。
しかし高校総体は県予選で敗れて、出場を逃している。
「インターハイ予選ではディフェンス、ルーズボール、リバウンドで負けて、インターハイに出られませんでした。今日は最後に自分がリバウンドを取って勝てたので本当によかったです」
昨夏の高校総体で見たときよりも体は間違いなく大きくなっている。全国大会に出れば留学生を筆頭に、大きくて強い選手と対戦することもある。当たり負けをしないようにと筋力トレーニングをそれまでよりも多く重ねてきた。
「その成果として、昨年は逃げていくプレーも多かったんですけど、今はたとえシュートがブレたとしてもぶつかっていこうという気持ちでプレーできるようになりました」
それが最後のリバウンドシュートでも表すことができた。昨年までの中道なら、逃げるようにシュートを打っていたかもしれない。しかし、今の中道はそこで逃げなかった。時間と点差を考えてのことだが、上記のとおり、リバウンド後すぐに飛び上がった。ここに中道の成長の過程はある。
闘志を前面に押し出して戦うビッグマンではない。しかしそれを知っているからだろう。東山耕平コーチらからは「お前がやれば勝てる」と言われ続けてきた。
「先生からそう言われてきたし、高校総体予選は自分のせいで負けたと思っているので、ウインターカップは自分がやって、チームを勝たせてあげよう……勝たせてあげたいって思っています」
大切なものは目に見えない。中道の闘志は間違いなく彼女の中にある。